計算管 藤田雅矢
きみ、さっきからえらい熱心に眺めてるなぁ。このパイプ、そんなに気になるか。ええところに興味持っとるな。ちょっと、このパイプの秘密を聞かしてやるわ。
実はな……これは計算機なんや。その昔、月まで行ったアポロロケットの軌道計算をこれでやったという話や。
嘘やと思てるやろ。これは、パイプ式計算機というて、微分とか積分とか、三角関数とか、そんな難しい計算もできるんや。きみ、計算尺って知ってるか。いまでも計算尺は、飛行機のパイロットが使うてるという話やけどな。
知らん? まぁ、そうかもな。計算尺っちゅうのは、ちょっと変わった目盛のついた物差しを組み合わせて、スライドさせて使うんやけど、わからんかなぁ。
このパイプ式計算機は、その計算尺の立体版というか複雑なやつでな、もう消えてしもたけどパイプには目盛がついてて、中に入れたパイプをスライドさせたり回したりすると、たちどころに難しい軌道計算もできるんや。大きいと精度も高い。電源なんていらん。パソコンなしで、このパイプだけで計算ができたんや、すごいやろ。
まだ信じてへんのか。そんなら、そこのパイプの下に転げてる石を見てみ。ひとつ色の違うのがあるやろ。それが月の石や。アポロロケットが無事地球に帰還したときに、計算のお礼にもろたらしいわ。
どや、きみ、わかったか。そうか。もう昔の話やからな。でもな、ほんまの話なんやで。
藤田雅矢
SF系もの書き&植物育種家
初めて参加させてもらいました。